連日のノーベル賞受賞。
嬉しいニュースが続きました。
ノーベル賞:物理学賞に梶田氏 宇宙形成の謎に迫る
毎日新聞 2015年10月06日 21時50分(最終更新 10月07日 00時56分)
スウェーデン王立科学アカデミーは6日、2015年のノーベル物理学賞を、梶田隆章・東京大宇宙線研究所長(56)とカナダ・クイーンズ大のアーサー・マクドナルド名誉教授(72)に授与すると発表した。授賞理由は「ニュートリノに質量があることを示すニュートリノ振動の発見」。物質を構成する基本粒子「素粒子」のニュートリノに質量があるという発見は、「質量ゼロ」の前提で組み立てられた現代物理学の見直しを迫り、物質や宇宙形成の謎に迫る成果と評価された。日本からの受賞は、5日に医学生理学賞に決まった大村智・北里大特別栄誉教授(80)に続き2日連続。物理学賞は昨年も赤崎勇・名城大終身教授(86)ら日本の3氏が受賞した。日本の受賞者は、米国籍の故・南部陽一郎氏(08年物理学賞)と中村修二氏(14年同)を含め計24人(医学生理学賞3、物理学賞11、化学賞7、文学賞2、平和賞1)となる。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金800万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)は両氏で等分する。ニュートリノは56年に発見されたが、他の物質とほとんど反応しないため観測が極めて難しく、質量の有無など詳しい性質は長い間の謎だった。詳しく観測するため、戸塚洋二・東京大特別栄誉教授(08年死去)が率いる国際プロジェクトが96年に始動。梶田氏は実験のまとめ役を務めた。96年から、巨大な水槽にニュートリノが飛び込んだ際にわずかに発する光をとらえる観測装置スーパーカミオカンデ(岐阜県飛騨市)を使った実験に取り組んだ。研究チームは3種類あるニュートリノのうち、宇宙線が地球の大気とぶつかって生じるミュー型が地球を貫通して1万キロ以上を移動する過程でタウ型に変わることを見つけた。ニュートリノが変身する現象は「ニュートリノ振動」と呼ばれ、ニュートリノに質量がなければ起きないことから、「質量の確証が得られた」と結論付けた。梶田氏が98年6月の国際会議で成果を発表すると、世界の有力紙が1面で報道、クリントン米大統領(当時)が祝福コメントを出すなど大きな反響を呼んだ。一方、マクドナルド名誉教授は01年、太陽から来たニュートリノが地球に届くまでに別の種類に変身していることを、カナダでの観測で突き止めた。ニュートリノ研究では、梶田氏を指導し、スーパーカミオカンデの前身の「カミオカンデ」でニュートリノの観測に成功した小柴昌俊・東京大特別栄誉教授(89)も02年のノーベル物理学賞を受賞している。梶田氏は毎日新聞の電話取材に「カミオカンデ、スーパーカミオカンデに協力してくれた皆様にお礼を言いたい。最初に喜びを伝えたのはカミオカンデの生みの親の小柴先生。亡くなった戸塚先生も、おられなければ、この成果はなかった。本当に感謝しています」と喜びを語った。【藤野基文、千葉紀和】【ことば】ニュートリノ物質を構成する最小単位の素粒子の一つ。宇宙空間に大量に存在し、地上にも常に降り注いでいるが、電気を帯びておらず、他の物質とほとんど反応せずにすり抜けるため、観測が難しい。「電子型」「ミュー型」「タウ型」の3種類がある。【略歴】梶田隆章(かじた・たかあき)氏 1959年、埼玉県東松山市生まれ。県立川越高を卒業後、埼玉大理学部に進学、81年に卒業した。東京大大学院で物理学を専攻(86年博士号)。東大では、小柴昌俊・東京大特別栄誉教授(2002年ノーベル物理学賞)の指揮の下、ニュートリノ観測装置「カミオカンデ」(岐阜県飛騨市)、性能を高めた「スーパーカミオカンデ」(同)の建設に携わった。99年からは東大宇宙線研究所宇宙ニュートリノ観測情報融合センター長を務め、08年から同研究所長。朝日賞、ブルーノ・ロッシ賞、仁科記念賞、パノフスキー賞などをチームや個人で受賞。12年日本学士院賞。妻と子供2人の4人家族。
余録:ローマ神話のミネルバは知恵の女神で、フクロウ…
毎日新聞 2015年10月07日 00時00分(最終更新 10月07日 00時01分)ローマ神話のミネルバは知恵の女神で、フクロウはそれを象徴する聖鳥である。哲学者のヘーゲルは「ミネルバのフクロウは黄昏(たそがれ)とともに飛び立つ」と記した。人間の知識や学問は一つの時代の終わりに初めてもたらされるというのだ▲画期的な学問成果は、その時代の成熟と共に現れてくる。そういう意味に理解すれば分かりやすい。昔覚えた言葉を思い出したのも、大村智(おおむら・さとし)さんのノーベル医学生理学賞受賞に続き、今度は梶田隆章(かじた・たかあき)さんの物理学賞受賞が決まるといううれしい知らせが届いたからだ▲梶田さんの受賞で自然科学3賞の日本の受賞者は21世紀に入って実に15人になる。米国に次ぐ2位にランクされるという。ノーベル賞の数を競う発想はあまり成熟という言葉に似つかわしくないが、ただ相次ぐ受賞がこの社会の知的成熟を表しているのならうれしい▲梶田さんの受賞業績はニュートリノという素粒子(そりゅうし)に質量があることを観測によって解明したというものだ。「質量のないモノがあるのか」と驚くコラム子のような大方の科学オンチには二重の仰天(ぎょうてん)だが、かつての物理学の「標準理論」を覆した画期的な業績だという▲この発見は梶田さんの先輩で、7年前に亡くなった戸塚洋二(とつか・ようじ)東大特別栄誉教授が率いる実験がもたらした。その結果をとりまとめた梶田さんは、遺志を引き継ぐかたちでの受賞となった。まさに湯川秀樹(ゆかわ・ひでき)から受け継がれてきた日本の素粒子物理学の底力を示す栄誉だ▲ノーベル賞ラッシュは戦後日本の生んだ文明の「成熟」の証しなのだろう。ここは受賞者の偉業をたたえつつ、何とかその「元気」も次世代に引き継ぎたい。
質問なるほドリ:素粒子ってなに?=回答・斎藤広子
毎日新聞 2015年10月07日 東京朝刊◇物質の最小単位 原子の1億分の1以下
なるほドリ 東京大宇宙線研究所長の梶田隆章(かじたたかあき)さんがノーベル物理学賞に決まったね。2日続けて日本人の受賞が決まるなんてすごいなあ。梶田さんは「素粒子(そりゅうし)のニュートリノに質量があることを示した」っていうけど、素粒子ってなに?記者 私たちの身の回りにある物を含め、宇宙に存在する物をどんどん細かくして、これ以上分けられなくした最小単位のことです。ニュートリノは素粒子の一つです。Q 最も小さな単位は原子(げんし)じゃないの?A 昔は原子が「物質の最小単位」と信じられてきましたが、原子はさらに「原子核(かく)」と「電子」に分けられます。原子核は「陽子(ようし)」と「中性子」がくっついたものです。その陽子や中性子は、素粒子の一つの「クォーク」がお互いに強い力で結びついてできているのです。Q 電子も素粒子なの?A 電子は素粒子「レプトン」というグループに入っていて、電子を含めて6種類あることが知られています。ニュートリノもこのうちの一つです。Q 素粒子ってどれくらい小さいの?A 原子の直径はだいたい1000万分の1ミリ程度で、素粒子はそれよりはるかに小さく、原子の1億分の1以下だとされています。実験で測れる限界を下回っています。クォークを野球ボールの大きさに例えると、陽子は東京ドームよりも大きくなります。ただし、こうした非常に小さな粒子の研究が、宇宙の仕組みを解明するのに役立つと考えられています。(科学環境部)