2015年10月6日火曜日

Record : ノーベル賞医学生理学賞(大村智・北里大学特別栄誉教授)



嬉しいニュースですね。




ノーベル賞:医学生理学賞に大村氏…寄生虫感染症の薬開発

毎日新聞 2015年10月05日 18時34分(最終更新 10月06日 01時53分)

大村智・北里大特別栄誉教授=竹内幹撮影
大村智・北里大特別栄誉教授=竹内幹撮影




大村智・北里研究所名誉理事長=東京都港区の北里大学生命科学研究所で2012年9月13日、猪飼健史撮影
大村智・北里研究所名誉理事長=東京都港区の北里大学生命科学研究所で2012年9月13日、猪飼健史撮影

 スウェーデンのカロリンスカ研究所は5日、2015年のノーベル医学生理学賞を大村智(さとし)北里大特別栄誉教授(80)と米ドリュー大のウィリアム・キャンベル博士(85)、中国中医科学院の女性科学者の屠ゆうゆう(と・ゆうゆう)首席研究員(84)の3氏に授与すると発表した。受賞理由は、大村氏とキャンベル氏が「寄生虫によって引き起こされる感染症の治療の開発」、屠氏が「マラリアの新規治療法に関する発見」。これらが主に開発途上国で感染症対策に役立っていることを、ノーベル財団は「人類への計り知れない貢献」とたたえた。中国籍の人の受賞は自然科学3賞で初めて。
 ※屠ゆうゆう教授の「ゆう」は口へんに幼。
 日本からの受賞は昨年の赤崎勇・名城大終身教授、天野浩・名古屋大教授、中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(米国籍)=いずれも物理学賞=の3氏に続き2年連続。医学生理学賞は利根川進・米マサチューセッツ工科大教授(1987年)、山中伸弥・京都大教授(12年)に続き3人目。日本の受賞者は、米国籍の故・南部陽一郎氏=08年物理学賞=と中村氏を含め23人(医学生理学賞3、物理学賞10、化学賞7、文学賞2、平和賞1)となる。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金800万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)の半額は屠氏に贈られ、残る半分を大村氏とキャンベル氏が等分する。
 土壌1グラムの中には、約1億個の微生物がいるとされる。大村氏は70年代から各地で土を採取して微生物を分離・培養し、その微生物が作る化学物質に有用なものがないか調べる中で、静岡県伊東市のゴルフ場周辺の土にいた新種の放線菌が出す物質から寄生虫に効果のある抗生物質「エバーメクチン」を発見し、79年に報告。キャンベル氏はそれが家畜に効果があることを確認した。
 その後、米製薬大手のメルク社との共同研究で、構造を一部変えた駆除薬「イベルメクチン」を開発。当初は家畜用に使われたが、蚊やブユが媒介する熱帯地方特有のヒトの病気で失明や視覚障害を引き起こす「オンコセルカ症(河川盲目症)」や皮膚などが肥大化して硬くなる「リンパ系フィラリア症(象皮病)」、ダニが原因の皮膚病「疥癬(かいせん)」などの特効薬として普及した。
 オンコセルカ症は「六大熱帯病」の一つに数えられ、87年には中部アフリカを中心に約1800万人が感染していた。しかし同年、WHO(世界保健機関)がメルク社の協力で薬の無償配布に乗り出したことで、2025年ごろには撲滅される見通しだ。リンパ系フィラリア症も含め、イベルメクチンの服用で感染の危機から救われる人は年間約3億人に上るという。
 北里大で午後8時半から記者会見した大村氏は「(受賞の知らせに)驚いている。微生物の力を借りているだけで、私が偉いことをしたのではない。若い人が仕事を続けて、世の中の役に立つ仕事が続くよう期待する」と話した。
 大村氏はほかにも、抗がん剤の研究を大きく進めたとされる「ラクタシスチン」「スタロウスポリン」など微生物由来の化学物質を企業との共同研究で次々と発見。多額の特許料収入を北里大学メディカルセンター(埼玉県北本市)の開設に充てるなど、日本の「産学連携」の先駆けにもなった。
 一方、屠氏は抗マラリア薬の「アルテミシニン」をキク科のクソニンジンから抽出することに成功した。【藤野基文】

 ◇大村智(おおむら・さとし)◇

 1935年、山梨県韮崎市生まれ。58年に山梨大学芸学部卒業後、東京都立墨田工業高の定時制の理科教員をしながら東京理科大大学院理学研究科に入った。63年に修了して山梨大助手、65年に北里研究所に入所。71〜73年に米ウェスレーヤン大に客員教授として留学し、帰国後の75年に北里大教授。北里研究所副所長を経て、90〜2008年に所長を務めた。美術にも通じ、今年5月まで女子美術大の理事長を計10年以上務めた。ヘキスト・ルセル賞(85年)、上原賞(89年)、ローベルト・コッホ・ゴールドメダル(97年)、ガードナー国際保健賞(14年)、朝日賞(15年)など受賞多数。92年に紫綬褒章、11年に瑞宝重光章を授与され、12年に文化功労者に選ばれた。








余録:「薬掘り けふは蛇骨を得たるかな」は蕪村…

毎日新聞 2015年10月06日 東京朝刊
 「薬掘り けふは蛇骨(だこつ)を得たるかな」は蕪村(ぶそん)である。「薬掘り」はちょうど今ごろの季語という。山野に薬草を掘ることだが、動物由来の薬もあったらしい。やはり江戸時代の俳人、太祇(たいぎ)には「薬掘 蝮(まむし)もさげてもどりけり」の句もある▲で、山野の土の中でひそかに作られる「薬」には、微生物によって作り出されるものがあるという。アフリカの熱帯病オンコセルカ症といわれてもピンとこないが、その「薬」が静岡県伊東市のゴルフ場近くの土の中から発見されたのだと聞けば、二重の驚きである▲微生物が作り出したこの物質をもとに製造された薬品は、毎年何千万人もの人に投与され、何万人もの失明を防いでいるのだという。土の中からこの物質を掘り当てた人こそ、今年のノーベル医学生理学賞の受賞が決まった北里大学特別栄誉教授の大村(おおむら)智(さとし)さんだった▲大村さんの「薬掘り」とは小さなポリ袋を持ち歩き、土を研究室へと送って分析するものだった。新たに見つかった化学物質はイエローブックという冊子にまとめられ、世界中の研究者が参照している。まさに彼らが新たな薬を掘り出す「宝の山」を積み上げたのだ▲若き日の大村さんは定時制高校で化学と体育を教えていた。そこで働きながら学ぶ生徒の姿に「学び直し」を決意し、研究者の道を歩み出す。美術の造詣も深く、女子美術大学の理事長も務めたという。聞くだけで垣根を軽く越える知性の自在さに楽しくなってくる▲歳時記の物語るところ、山野から病を癒やす自然の恵みを掘り当てるのは古くからの営みである。埋もれた季語も掘り出した大村さんの栄誉を心から祝う。