イングランドで開催されているラグビーワールドカップ。
日本と南アフリカの試合。劇的な勝利でした。
舞台は違いますが、社会人大会の神戸製鋼と三洋電気の試合を思い出しました。
ラグビーW杯:日本、南ア破る 世界3位に歴史的1勝
毎日新聞 2015年09月21日 東京朝刊
【ブライトン(英国)吉見裕都】ラグビーの第8回ワールドカップ(W杯)イングランド大会は第2日の19日(日本時間20日)、当地のブライトン・コミュニティー・スタジアムで、日本(世界ランキング13位)が過去2回優勝している南アフリカ(同3位)と1次リーグB組の初戦を戦い、34−32で破る波乱を起こした。▽1次リーグB組日本 34 10−12 32 南アフリカ(勝ち点4) 24−20 (2)3点を追う試合終了間際にカーン・ヘスケス(サニックス)が逆転トライに成功した。日本のW杯勝利は第2回大会(1991年)のジンバブエ戦以来24年ぶりで、成績は2勝21敗2分け(20日現在)。W杯でこれまで南アフリカに勝ったのは優勝経験があるニュージーランド、オーストラリア、イングランドの3チームしかなく、2019年の次回大会開催国となる日本のラグビー界にも歴史的な1勝となった。初の決勝トーナメント進出を狙う日本は、1次リーグで残り3試合を戦う。各組2位までの8チームが決勝トーナメントに進む。◇「必然の奇跡」
過去7回のW杯で1勝しかしていない日本。対して25勝4敗の南アフリカを破る金星は「奇跡」に近い。だが、1トライを含む24得点を挙げた五郎丸歩(ヤマハ発動機)は言う。「(勝利は)必然。ラグビーに奇跡なんてない」。できる限りの準備を積み上げてきた日本にとって、起こるべくして起きた「必然の奇跡」だった。最大の要因は、オーストラリア出身で南アフリカで指導歴もあるエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が「世界一厳しい」と自負する練習量で培った体力に帰結する。足元に低く飛び込むタックルで、戸惑わせた。通常はパスを封じるために上半身を抱えるタックルが多い。だが、体格で劣る日本のタックルでは相手が止まらない。まず足を止め、2人目、3人目が上半身にタックルに行った。豊富な運動量が「二の矢」「三の矢」を可能にした。日本は苦手としてきた後半も32分に勝ち越されながら、冷静に戦って逆転劇につなげた。リーチ・マイケル主将(東芝)は「今までやってきたことを信じることができた」と感謝する。朝、昼、晩の3部練習を中心に、4月から断続的に合宿を行った。ジョーンズHCは試合後の記者会見で「日本の選手は高校、大学と毎日、3、4時間練習してきた」と語り、こうした厳しい練習に耐えられる資質があることを確信していたことを披露した。「これだけやれば勝つ」と信じ込ませた「ジャパンウエー(日本式)」が、大舞台で開花した。
ラグビーW杯:日本、強豪・南アフリカ撃破(その1) 歴史変えた決断 ヘスケス、逆転トライ
毎日新聞 2015年09月21日 東京朝刊
【ブライトン(英国)吉見裕都】史上に残る大金星で、日本が発進した。ラグビーのワールドカップ(W杯)イングランド大会は19日(日本時間20日)、1次リーグB組の日本は当地での南アフリカとの初戦で、過去2回優勝している強豪を34−32で破った。日本は勝ち点4、南アフリカは同2となった。
南アフリカの34失点は、W杯では自国ワースト。24得点を挙げたFB五郎丸(ヤマハ発動機)は、日本代表のW杯1試合最多得点を記録した。
五郎丸のPGで先制した日本は、前半を10−12で折り返した。後半28分に五郎丸のトライ、ゴールで同点。32分にPGで3点を勝ち越されたが、終了間際にPKを得た日本はスクラムを選択し、パスをつないで、最後はヘスケス(サニックス)が逆転トライを決めた。
20日は日本と同じB組のサモア−米国戦が行われ、サモアが25−16で勝った。C組では、前回大会優勝のニュージーランドとアルゼンチンが対戦した。
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■焦点
◇勝負、スクラム選択
冒険のように見えたスクラム選択にも迷いはなかった。FB五郎丸が言う。「同点は歴史を変えるには必要ない。勝つか、負けるか」。PGが決まれば追い付く場面だったが、「黄金の右足」は封印し、勝負を懸けた。
3点を追う試合終了直前。相手ゴール前でPKを得た日本は、スクラムを選んだ。シンビンで相手FWが1人少ない状況に、ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)から「思うようにやれ」と任されていたフランカーのリーチ主将も即断した。
スクラムはやや押されたが、何とかボールを出すと日本得意の連続攻撃。パスとラックを7度繰り返し、右中間から一気に左へ展開。最後は途中出場のWTBヘスケスが左隅のインゴールへ滑り込んだ。「歴史的事件」を目撃したスタンドの声援は絶叫に変わった。
前半はほとんど自陣だったが、低いタックルで粘り強く守った。スクラム、ラインアウトは期待通りに危なげなく、後半に入ると豊富な運動量の日本FWが相手FWに走り勝ち始め、堅固な防御が代名詞の南アフリカはブレークダウン(タックル後のボール争奪戦)で反則を連発。五郎丸の右足からのPGが何度も決まり、接戦のまま、最終盤の逆転劇に持ち込んだ。
2019年W杯の日本開催が09年に決まったが、11年の前回W杯は惨敗。危機感を持った選手たちは「歴史を変える」と公言してきた。鮮烈な印象を与えた衝撃的な「番狂わせ」。「歴史は変わった。野球選手やサッカー選手になりたがっていた子どもが、五郎丸やリーチになりたいと、ラグビーに集まる」。ジョーンズHCの言葉も、大げさに聞こえない。【吉見裕都】
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◇次はスコットランド 23日
1次リーグは出場20カ国・地域が5カ国・地域ずつ4組に分かれて行われる。B組の日本は南アフリカを破った初戦に続き、23日午後2時半(日本時間午後10時半)からスコットランド、10月3日午後2時半(同午後10時半)からサモア、11日午後8時(同12日午前4時)から米国と、それぞれ対戦。2位までが準々決勝に進む。
1次リーグの試合間隔は各国が同じではなく、日本は次のスコットランド戦まで中3日と短い。そのため、体力面の回復も大きな課題となる。
◇地元紙「厳しい挑戦になる」
日本が次戦でぶつかるスコットランドの最大都市グラスゴーの地元紙ヘラルド(電子版)は20日、「番狂わせの前から、スコットランドは日本を警戒」との見出しで、スコットランドにとって大会初戦となる日本戦に向けて準備してきたチームの様子などを伝えた。同紙は「日本がスコットランドと対戦する前に、勝ち点4を挙げるとは予期できなかった」と南アフリカ戦の勝利に驚きつつも、「過去のどの対戦よりも厳しい挑戦になることは分かっていた」とつづった。
スコットランドはW杯で1991年と2003年の2度、日本と対戦し勝利。だが同紙は「『(過去の)対戦成績は忘れろ』というのがコーチ陣からのメッセージ。両チームの対戦は少なく、今回の試合とはまったく関係ない」と強調する。さらに元イングランド代表主将のスティーブ・ボーズウィック氏が日本のFWコーチを務めていることなどに触れ、スクラムの強化が進む現状を紹介。「日本は強大な相手にのみ込まれなかった。次は我々が冷静な戦いを見せる番」と締めくくっている。【田原和宏】
ラグビーW杯:日本、強豪・南アフリカ撃破(その2止) 黄金の右、世界に衝撃 五郎丸24点、正確キック
毎日新聞 2015年09月21日 東京朝刊◇「ロベカル初速」+「ベッカム回転」
日本の劇的な勝利には、FB五郎丸が正確無比なキックで貢献した。9本中7本のキックを決めたが、後半2分に逆転PG、その後3度もキックで同点として、南アフリカにボディーブローのようにダメージを与え続けた。W杯の日本代表で1試合最多の24得点(1トライを含む)。2003年大会のフランス戦で栗原徹が記録した19得点を塗り替えた。日本代表の歴代最多得点も積み上げてきた右足のキックは、どう優れているのか。日本ラグビー協会で競技力向上委員の経験もある山形大の瀬尾和哉教授(機械工学)はサッカーの名選手を引き合いに出し、「ロベルトカルロス並みの初速度とベッカム並みの回転を備え、真っすぐに飛ばせる」と指摘する。まず、遠くからでもゴールを狙うには長い飛距離が必要だが、それには蹴った際の初速度の大きさと、ボールの回転速度(バックスピン)の速さが条件になる。初速度を上げるには重心位置を正確に蹴り、回転速度を上げるには地面に近い位置を蹴る必要がある。瀬尾教授は今年8月、宮崎市内で五郎丸のキックを高速カメラで撮影・分析した。すると、初速度は秒速約31メートルで、強烈なフリーキックで知られるサッカー元ブラジル代表ロベルトカルロス並みといい、回転速度は1秒間に約7回で、これは元イングランド代表ベッカムに匹敵するという。瀬尾教授は「初速度と回転速度が同時にこれほど大きいことは考えられない」と驚く。ボールは楕円(だえん)形のため、縦に回る回転軸(短軸)と、ボールの蹴り出し方向が垂直に交わらなければ曲がってしまうが、瀬尾教授は五郎丸のキックが大きな速度を出すと同時に、回転軸と蹴り出し方向が常に90度前後に保たれ、真っすぐに飛ばす繊細な技術を両立させている点を特長に挙げる。蹴り出し前の動きを見ると、右膝や右足首の角度も、常に一致していたという。五郎丸は自身のキックについて「点で蹴るのではなく、押し出すようにしている」と話す。ボールと足の接触時間は0・01〜0・012秒で、瀬尾教授は「接触時間が長いことで、初速度と回転速度の速さが生まれる」と説明する。五郎丸は蹴った後にジャンプする動作をするが、その動きは毎回のように異なる。瀬尾教授は「わずかな時間の中で回転軸と蹴り出し方向を微調整することで、キック後のジャンプの動作に変化が生まれているのではないか」と見る。そして「飛距離と正確性で鬼に金棒、小野(喬=体操五輪メダリスト)に鉄棒、五郎丸にゴールキックです」と話した。【江連能弘】◇リズム生み存在感
○…マン・オブ・ザ・マッチに選ばれたSH田中(パナソニック)。正確でテンポのいいパスで攻撃のリズムを生んだ。「ディフェンスがよかった。一人一人の判断が光った」と個人的な表彰よりもチームの成長を喜んだ。南半球の世界最高峰リーグ、スーパーラグビーの決勝にベンチ入りした経験から、選手のまとめ役としても存在感を示している。◇37歳最年長出場
○…37歳で先発出場したロックの大野(東芝)は、W杯での日本代表最年長出場を果たした。大柄な南アフリカを相手に、鬼気迫る表情と年齢を感じさせない激しい動きで、ブレークダウン(タックル後のボール争奪戦)を優位に持ち込んだ。「スタジアムがジャパンの空気になって勇気をもらった」と自分たちのプレーで競技場を味方に付けたことを喜んだ。これで日本通算最多キャップの95。決勝トーナメント進出の可能性もあり、キャップ100も現実味を帯びてきた。★外国出身選手の代表条件今回のラグビーW杯日本代表には10人の外国出身選手(うち5人は日本国籍取得)がいる。国際統括団体「ワールドラグビー」が定める外国出身選手の代表条件は以下の通り。他の国や地域の代表経験がなく、(1)出生地が当該国(2)両親、祖父母のうち1人が当該国出身(3)当該国に3年以上居住。今大会参加20チームでは、アルゼンチンだけ全選手同国出身。その他は他の国・地域出身の選手がいる。